環境が改善されない理由のひとつは、環境の悪化に警告は発しても、それを改善するための根本的変革を試みようとする政府がほとんどないからです。
たとえば、気候を安定させるには、エネルギー経済を全国的規模で構築しなおすことが必要です。
人口増加に歯止めをかけるには、子孫をもうけようとする人間の営みが大衆レベルで変わっていかなくてはならないでしょう。
しかし、地球の気温がこのまま上昇を続けたらどうなるか、人口が急速に増えたらどうなるかといった問題に対する一般の人々の理解は不十分です。
そのため効果的な制作が打ち出せないのが現状でしょう。
地球の環境持続システムを守る戦いは、イデオロギーの優越性を競う戦いとはいくつかの重要な点で異なります。
冷戦は概して抽象的な戦いで、戦略策定者によってつくられたキャンペーンでした。
この戦いにおいて経済的負担を背負うのは市民であり、それはきわめて切実なことです。
しかしその一点を除けば、アメリカ合衆国やソ連(当時)の人々の多くがこの戦いに直接参加しているわけではありませんでした。
しかし、環境を守る新しい戦いにおいては、人々はいたるところでそれに参加していく必要があります。
個人は自分の出すゴミをどうリサイクルするかを考えなければなりませんし、夫婦は二人目の子どもを持つべきかどうかの選択を迫られ・・・
エネルギー担当の閣僚は環境的に持続可能なエネルギー・システムを考案しなくてはなりません。
冷戦の目標は、他人の価値観と行動を変えることに向けられていましたが、地球を守る戦いに勝利できるかどうかは、自分自身の価値観と行動を変えられるかどうかにかかっています。
冷戦にともなうあつれきが解消されるにつれ、世界中に広がる環境破壊の大きさと、それに対処する努力の不十分さが明らかになってきました。
1970年の第1回アース・デー以後の20年で、世界では2億ヘクタール近い森林が失われました。
これをアメリカ合衆国にあてはめると、ミシシッピ川以東の全国土にあたる広さです。
砂漠は1億2000万ヘクタールも拡大しましたが、これは中国の現在の作付面積を超えています。
70年に地球上に棲息していた動植物のうち、数千種が絶滅しました。
20年の間に人口は16億近く増加しましたが、それは1900年当時の地球の総人口を上回る数です。
さらに、世界の農地では20年間に推定4800億トンの表土が失われましたが、これはインドの耕地のすべての表土に匹敵します。
この20年来、各国政府は環境保護に取り組んできましたが、地球環境の悪化はさらに進んでいます。
90年代に入ってから、各国はこぞって環境関係の省庁をつくり、議会では環境保護のための法案を数多く成立させました。
何万もの草の根運動が、各地の環境破壊に反対して立ち上がりました。
全国規模の環境保護団体の会員数も各国で増加しています。
・・・にもかかわらず、1990年のアース・デーにデニス・ヘイズ議長はこう延べなければなりませんでした。
「わたしたちがどれほど激しく戦い、どれほど多くの戦闘に勝利してきたとしても、環境を守る戦いはまさに敗北に瀕しているのではあるまいか」。
1990年代の幕開けとともに、世界は新しい時代に突入しました。
40年間にわたって国際社会を支配し、世界経済を史上に例を見ないほど軍事化してきた冷戦は終りを告げました。
それとともに、冷戦が生み出してきた世界秩序も終結を迎えました。
東西のイデオロギー構想は、1世代以上にわたって世界秩序をかたちづくるほど激しいものでした。
それは二大超大国の外交政策を規定する明確な原理を海、その他の諸国もほぼその原理のもとで動きました。
しかし、古いプライオリティと軍事同盟が有効性を失うにつれ、いま、わたしたちは歴史上の稀有な転換点に立とうとしています。
それは大変革期であり、予想することも避けることも出来ないものです。
新しい秩序がどういうものになるか明言できる人はいません。
しかし、次の世代のために豊かな未来をつくろうとするなら、地球環境の悪化を食い止めるために必要な多大の努力が、今後数十年にわたって世界を動かしていくことになるでしょう。
新しい世界秩序をかたちづくる主題が、イデオロギーをめぐる戦いから地球を救うための戦いに変わることには間違いありません。